初のオリンピック出場から考えるスポーツ×トランスジェンダー

コロナ禍による無観客開催となり、気付いたら始まって終わっていた東京オリンピック。
今回のオリンピックに、史上初めてトランスジェンダーを公表した選手が出場しました。ニュージーランドの重量挙げ選手、ローレル・ハバード氏です。

ハバード選手は、身体的に男性として産まれましたが、2012年に性別転換をして女性となりました。
そして産まれた時とは違う性として、重量挙げ女子87キロ超級でオリンピックに出場。
記録こそ残せませんでしたが、大きな歴史を残すこととなりました。

そこで疑問に感じる方は多いでしょう。
「元々身体が男性だったんだから、女性と戦ったら有利になるのでは?」
「逆の場合はどうなるんだろう?」
これは今回のオリンピックに限らず、トランスジェンダーが協議としてスポーツ大会などに出場するときに問題となるポイントです。
改めて「スポーツとトランスジェンダー」について考えてみましょう。

目次

トランスジェンダーがオリンピックに出場するには?

まず、トランスジェンダーの選手の出場条件について、2015年11月IOCが公表した「トランスジェンダーガイドライン」を見てみましょう。

性別適合手術は不要

意外なことに、性別適合手術は必須条件ではありません
本文には「トランスジェンダーの選手が競技スポーツから排除されないよう、可能な限り出場機会を確保しなければならない。(中略)性別適合手術は不要。性別適合手術を参加の条件にすることは、法の進展と人権の概念と矛盾する可能性がある。」
と書かれています。

性別適合手術は、基本的に生殖機能を失うことになるものであり、それを参加条件にしてしまうと、人が自由に子孫を残すという基本的な人権の概念に反することになりかねない。ということです。

女性から男性へ移行した選手は条件なし

基本的にトランスジェンダーの選手が競技に参加する際に問題となるのは「男性の身体の方が有利ではないか」ということ。
そのため元々身体が女性だった人が男性に移行をし、男性として男性同士で戦う分には有利になる可能性はないとされています。

性自認が女性であることを宣言していること

「性自認が女性であること」を宣言している、つまり身体的に男性で産まれたが「自分は女性だ」と思っているという状態であると公言していることが条件です。
宣言した性自認はスポーツ競技目的で、最低4年間は変更できないものとされています。

テストステロン値の規定

・出場までの最低1年間は、血清中の総テストステロン値が1リットル当たり10ナノモル以下を維持していること
・女性の競技に出場している期間、血清中の総テストステロン値が常に上記の値を維持していること

が条件となります。テストステロン値とはいわゆる男性ホルモン値です。
男性ホルモン値が高ければ高いほど、筋肉がつきやすくなり身体が増強されやすいとされています。
そのため、男性から女性に移行したトランスジェンダーの選手は身体的に有利にならないよう、このようなテストステロン値の条件が課されています。

テストステロン値を下げる方法は、女性ホルモン治療や精巣摘出術です。
性別転換手術は必須条件ではありませんが、男性ホルモン値を下げるためにはする必要がある可能性もあります。


以上の条件に違反した場合には、女性の競技への出場資格が1年間停止されます。

女性が「女性」の競技に出られなくなることも?

出場規定の中で一番問題となるのが「テストステロン値」の問題です。

実はトランスジェンダーガイドライン以外にも、テストステロン値によって出場制限を設けているものがあります。
それが世界陸上連盟の規定です。
世界陸所連盟の規定では、ある一定のテストステロン値を超えている選手は女子400~1600mに出られないという規定があります。

この規定により先天的にテストステロン値が高かった、南アフリカのキャスター・セメンヤ選手やナミビアのクリスティン・エムボマ選手などが協議に規定外の競技に出ざるを得なかったことがありました。

スポーツの能力にテストステロン値が与える影響の医学的根拠が強く求められていますが、現状は妥当な制限とされています。

出場資格を満たしても非難の声も

東京オリンピックに出場したハバード選手は、上記の出場資格を満たしたことで、出場を果たしました。

しかし、それでも批判的な声も上がっています。
「不公平だ」「思春期を男性として過ごした人はやはり身体的に有利だ」など。
一理あるように聞こえますし、他のオリンピックに出られなかった女性選手からみると不公平に見えるかもしれません。

しかし「身体的な有利さ」と「スポーツの能力」は必ずしも比例するわけではありません
それを考えるために、次のようなことを考えてみましょう。

背が高いバスケ選手はずるい!って言う?

バスケットボールは確かに背が高い方が有利とされています。

しかし、だからと言って背が高い選手を「ずるい」「不公平だ」と言うでしょうか?
日本対アメリカの試合などを見ても対格差は明らかですが、それで「アメリカはずるい」などとは言わないのではないでしょうか?
それどころか、比較的背の小さい選手もたくさん活躍しています。

視力がいい野球選手はずるい!って言う?

野球に限らず、球技や、遠くの的を狙うアーチェリーなどは、視力がいい方が有利かもしれません。

しかし視力って治療をしようと思えばできますし、環境要因もありますが遺伝的な面もあります。
そこで視力がいい選手のことを「ずるい」「不公平だ」なんて言う人、いないですよね。

このように、体格や筋肉量などだけではスポーツの能力は決らないことを、ほとんどの人は分かっているはず。
もちろん、産まれた時の身体的性別やテストステロン値、成長期のスポーツ経験などによる体格や筋肉量が大きく影響することは否定しません。
でも、それで「不公平」「ずるい」とは言わないのではないでしょうか?
しかしトランスジェンダーの問題となると「ずるい」という話が出てきてしまうのが現状です。

東京オリンピックが多様性のきっかけに

まだ、テストステロン値がどの種目においてどのくらいの量なら、有利になるのかなどの細かい医学的データが出ていません。
トランスジェンダーの選手が有利だということも医学的に細かく分かってはいないのです。

東京オリンピックにトランスジェンダーの選手が初出場したことにより、各スポーツ団体が、トランスジェンダー選手の協議参加について考え、様々な選手が平等に競技に参加するには?ということを見直すきっかけになりました。
今はまだ途上段階で、今後どんどんルールや基準が変わっていくことが考えられます。

性自認と違う競技を続ける人が多い

女子サッカー元日本代表の横山久美選手が、トランスジェンダーであることを公表しました。
男性として生きていきたい、という想いがあるとYouTubeで話されています。

現状、トランスジェンダーでスポーツ競技を行っている人は、性自認が身体的な性と違っていても、身体的な性別の競技を続けることが多いです。
性自認と一致する性別として生きるためには、競技をやめなければならない。その狭間で悩み続けている人も。
選手の間は性自認と別の性別として扱われるのを、我慢し続けなければならないというのが現状です。

男/女で分けられているスポーツ

基本的に現状では、スポーツは男/女で分けられています。

身体的な性別や性自認に関わらす、平等に競技に参加できるようになればいいですね。
初のトランスジェンダーとしてオリンピックに出場したハバード選手、トランスジェンダーであることを公表した横山選手などが、大きなきっかけとなり、今後「スポーツ競技に参加するために性別に関することを我慢する」ということが、無くなることに期待したいです。

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